インタビュー Interview

これからのビジネスを動かす共創の力

大きく変化し続ける時代にあって、これからのビジネスの現場ではどのような力が求められていくのでしょうかインタビュー2回目は「Soup Stock Tokyo」などを展開する実業家であり新学科の教授に就任予定株式会社スマイルズ代表・遠山正道さんにお話を伺いました「アート」と「デザイン」と「ビジネス」の違いとは、多彩な事業を展開するスマイルズにおける共創とは、そして新学科で実現してきたい学びとは。 

遠山 正道(写真左)
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、1985年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立。現在、「Soup Stock Tokyo」「giraffe」「PASS THE BATON」「100本のスプーン」などの事業を展開。「生活価値の拡充」という理念のもと、既成概念にとらわれず、一人ひとりの発意を起点にした価値づくりに邁進している。共創デザイン学科では、教授に就任予定。

松本 博子(同右)
女子美術大学 芸術学部 共創デザイン学科学科長 就任予定

デザインは、ビジネスとアートをつなぐ共通言語。

松本:遠山さんとは、共通の知人を通して知り合い、これまでに何度も面談させていただきました。その中で私が感じていたのは、第一線で活躍されているビジネスパーソンでありながらアーティスト視点をお持ちの方であること。また自らルールを設けることなく、非常に柔軟に、自由に活動されている方であることでした。何より、自ら行動して多彩な事業を展開されている方でもありますので、新学科が目指すところとも親和性が高く、ぜひ教授に就任していただきたいと思っていました。

遠山:ありがとうございます。身内に何人か教授がいまして、正直「教授」には憧れがありました。それは半分冗談ですけど(笑)。「Soup Stock Tokyo」のお客様も多くは女性ですし、社員も約4割が女性。だから多くの女性と力を合わせて事業を育ててきたという意識があるんです。この女子美術大学というフィールドで学生の皆さんと共に、これまでとは違う新しくて面白い活動を展開できるのではととても楽しみにしています。

松本:新学科のテーマである「共創デザイン」については、どんな印象をお持ちですか?

遠山:まず「デザイン」についてですが、僕はビジネスと共にアートの領域にもいる人間で、これまで「デザイン」を意識したことがあまりなかったんです。会社を立ち上げた時から、ロゴマーク作りやお店の内装とかも自分たちでやっていて、それが当たり前になっていたので、特段デザインというものを切り出して考える機会がありませんでした。

松本:「アート」と「デザイン」の違いはどんなところにあるとお考えなのですか?

遠山:「デザイン」は、顧客ありきのクライアントワークですよね。クライアントが抱える課題の解決とか、ゴールや結果が重視されます。一方、「アート」はと言うとクライアントはいません。誰かに「何これ?」と言われても「知らないよ、作っただけだよ」ということで成立するもの。その合理性のない強いエネルギーが、時として大きなパワーを生みますよね。世の中では「アート」というとつかみどころのない存在になっていて、だからこそそこにはまだ「事業」や「社会」との重なり合う領域がたくさんある気がしています。ただ、「アート」と「ビジネス」の間には距離があります。その間に、両者をつなぐ共通言語としての「デザイン」が存在しているのかなと思っています。

松本:デザインも、人の幸せを想ってビジョンを描くという点において、遠山さんが仰っている「アート」に通じるところがありますね。もちろんクライアントワークもありますが、クライアントの要望を超えた新たな視点で価値のある提案をすることも大切。それもデザイナーに求められる能力だと思っています。では次に、「共創」についてはどんなお考えをお持ちですか?

遠山:僕自身にはプロフェッショナリズムがないんです。スープの事業をしていますがスープは作れませんし、ネクタイの店舗を展開していますがネクタイを縫えるわけではありません。何かの専門家ではないのですが、「あれとこれをつなげたら面白いんじゃないか」という発想を起点にさまざまな事業化を進めてきました。だから、一人ひとりの個性や強み、良いところを掛け合わせて何かを作り上げていく共創はとても大切な力だと思っています。僕がスマイルズで取り組んできた20年間の経験は、新学科の学生のみなさんにも説得力を持って伝えていけるかなと思っています。

新しいビジネスは、個人の「気付き」から生まれる。

松本:遠山さん率いる株式会社スマイルズはさまざまな事業を展開していますが、改めてどういう会社なのかご紹介いただけますか?

遠山:スマイルズは、僕が三菱商事という商社に勤務していたときに立ち上げた会社です。創業する前の33歳の時に、思い立って自分で絵を描いて個展を開いたんです。そこで初めて「個性を出せたな」と思って。この経験がきっかけになって、自分で動いて何か世の中に表現する面白さを知り、そこからスマイルズの起業へとつながっていきました。現在は、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」をはじめ、ネクタイ専門ブランドの「giraffe」や、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などの事業を展開しています。

松本: スマイルズでは、どうして多彩な事業が生まれてくるのでしょうか?

遠山:はじまりが僕の個展からということもあって、スマイルズでは「誰が、何をやりたいのか」ということを大事にしています。世の中がこうだからとマーケティングをするのではなく、個人の気付きや体験、興味を全ての起点にしています。ビジネスって、なかなかうまく行かないんですよね。その大変な時に「誰がどうして始めたんだっけ?」という根本がないと、すぐに崩壊してしまう。でも、あれば踏ん張れる。だから、いかに自分ごと化するかがポイントですね。そうしてなんとか事業を継続してきた結果が、今のスマイルズです。

松本:私もデザインを教えている中で「気付き」を大切にしてきました。デザイナーも生活者として主体性を持っていないといい気付きができず、いい仕事につながっていきません。これまで気付きはデザインの一要素だと思っていましたが、ビジネスを起こす際にも重要なのですね。

遠山:作品を作るのと起業はよく似ていると思っています。「こんなものを作りたい」という想いがあるから作品を作りますし、それは事業化も同じ。本来のビジネスというのはそういうところが入り口になっているんです。例えば、昔、本田さんという人がいて、その奥さんが自転車で遠くまで買い出しに行くのが大変そうだと思って補助動力としてエンジンをつけてあげた。それが現在のHONDAである、というお話がウィキペディアに書いてあるように(笑)。

松本:今のお話にも「気付き」がありますし、「こんなものを作りたい」が根本にありますね。

遠山:そうですね。実は、「こんなものを作りたい」という想いから絵の個展を5回ほど開催したのですが、それから20年間やってないんですよ。「Soup Stock Tokyo」の方が面白くなってしまって。ビジネスはアートと違ってみんなで力を発揮して作り上げていくので、それがアートより楽しい。それに絵だと一人のお客様が「いいね」と言って購入していただけてそれはもちろん嬉しいのですが、スープはもっと広がりがあって、大勢のさまざまなお客様に喜んでいただけます。ビジネスはある種の表現でありながら、とてもダイナミック。僕はビジネスという表現のインフラ作りが楽しくなっていったんです。

これからは「プロジェクトの時代」。自分から仕掛けられる人が求められる。

松本:会社の中では、共創はどのように行われているのですか?

遠山:共創であふれていますね(笑)。スマイルズという会社では、自分でやることを見つけて、いろんな人がいろんなプロジェクトに首を突っ込んでいきます。だからごく自然に共創が行われています。また、個性が強い人が集まっているので、生存戦略ではないですけど、この組織の中で何ができる人間なのかハッキリさせないと社内でも声がかからないんです。

松本:ある意味、厳しい環境でもありますね。そのような共創を自然発生させる状態をどうやって作ったのですか?

遠山:これも個人の想いを重視してきた結果だと思います。スマイルズでは基本的にマネジメントというものはしていないんです。やらされ仕事でやったものではなく、何も指示のない中で、徹底的に自分ごと化して、自分たちで考えてなんとかする。そういう経験をすると一人ひとりの中に自信が育まれていくんですよね。

松本:なるほど。あえて指示を与えないことで、共創を起こしやすくすると。私は企業とのプロジェクト型授業でもあまり指示を出し過ぎないようにしているんです。「これを使って生活を豊かにするアイデアを考えてください、以上」という感じです。きっちりスケジュールまで固めてくる先生もいらっしゃる中で、進め方の部分から学生が自分たちで考えればいいんじゃないかなとも思っていて。遠山さんのお話を聞いて、私も授業のやり方に自信が持てました(笑)。

遠山:今の時代、社会に出たら共創ばかりじゃないですか。一つの会社に定年まで勤め上げるなんてことがほぼない状況の中で、働き方や生き方のグラデーションのようなものがあるといいですよね。会社とは別に地域のコミュニティとの関係があったとして、その両方を一人が行ったり来たりすることでこれまでの経験が活かされたり、またそうして得たその人の個性が会社で重宝がられたり。どんどん掛け算の生き方になっていく。これからは「プロジェクト化の時代」だと思っていて、そうなるとやはり重要なのは「個」なんですよ。もっと個人のユニークさが活かされるような、共創が当たり前に起こっていく社会になっていくといいなと思いますね。

松本:これからの社会にはどんな人が求められると思いますか?

遠山:これからの人は大きく3種類に分けられると思っています。自分から仕掛ける人か、声がかかる人か、そのどちらでもないか、です。どちらでもない人は残念ながら食べていけない人で、声がかかる人は大事だけど、いつか声がかからなくなる可能性もありますよね。そうなると、自分から仕掛ける人がやはりいい。共創の中心にいるような、自分から仕掛けられる人を育てていく必要があると思っています。

周りを巻き込んでプロジェクトを起こせる力を育みたい。

松本:企業が抱える課題を学生に解決させるというプロジェクト型授業では、表層的な問題にとらわれず、より一層深い部分にある問題に気付く力を養っていければと思っています。遠山さんとお話ししているともっと新しく面白いアプローチもできるのではないかと可能性を感じています。学生の学びはどこで学びにつながるか分からないんですよね。卒業して心に残っている言葉って、勉強とは全然違って、先生と雑談しているときの言葉が記憶に残っていたりして、それが困ったときの心の支えになったりします。1年生の時には自分のコアを作ることが大切だと思うのですが、2年生からは自分で気付きを得ていく期間に入ります。そこでみっちり遠山さんの考え方に触れられる遠山ゼミがあればいいなと思います。遠山さんは授業の構想はありますか?

遠山:やはり、大前提として自分自身が楽しめないと楽しい授業にはならないので、そこは大事にしたいです。あとは多分小さなプロジェクトを授業の中に組み込んでいき、学生一人ひとりが自分で体験し、気付きや学びを得てもらうというスタイルがいいのではと思っています。スマイルズへのインターンも可能性としてあるかもしれませんね。学生時代の体験は、社会人になった時にタネになりますから。成功も失敗もなんでもタネにできる。だからいろいろな人やプロジェクトとの出会いの機会を用意して、その中で実験を繰り返しながら一人ひとりの個性や力を育んでいければと思います。

松本:教育は実験。まさにそうだと思います。

遠山:そこをどう楽しんでいけるかですね。会社だと「自分ごと化」という言葉をよく使いますが、とにかく自分のことに気付く機会が早いうちに訪れる場を提供できるといいと思っています。卒業したら社会人になるとは思いますが、私は今後の社会はプロジェクト化の時代だと思っているので、自分から発意して周りを巻き込んでプロジェクトを起こせる力を養いたい。プロジェクトは一人ではできないから、会社を作ったり、地域に協力してもらったり、さまざまな人たちを説得して巻き込んでいくことが必要だと思います。さまざまな共創型プロジェクトを立ち上げて実践していく練習の場にしていきたいですね。

松本:遠山さんが考えていることをしっかり実現できる場を作っていきたいと思っています。今日はありがとうございました。

遠山:ありがとうございました。

Text&Edit : White Note Inc.
Photo : Gyo Terauchi