インタビュー Interview

新しいデザイナー像と求められる共創の力

世の中においてデザインが担う領域は広がりを見せ、デザイナーという職種に求められる力も、その働き方も、大きく変化してきています。インタビュー第3回目は、UI/UX(※)デザインを軸に活躍するデザイナーでありながら、スタートアップ企業のCDO(Chief Design Officer)を務め、自ら立ち上げた会社の経営者でもある小玉千陽さん。試行錯誤しながら道を切り開いてきた小玉さんは、これまでどんなことを感じ、考え、歩んできたのでしょうか。これからのデザイナーに求められる視点やマインド、スキルとは。そして小玉さんが考える共創力とは。

(※)UI…User Interface/ユーザーとプロダクトをつなぐ接点を意味する言葉。例えば、PCやスマホ、タブレットでWEBサイトなどを見ているとき、その画面上で見られる情報(フォントやデザイン等)すべて。

(※)UX…User Experience/プロダクトやサービスを通じて得られるすべてのユーザー体験。

小玉千陽(写真左)
東京工業大学工学部を卒業後、2011年に深津貴之氏率いるArt&Mobileに入社。フリーランス、広告代理店を経て、2017年にデザインスタジオium inc.を設立。2020年4月よりTHE GUILDのボードメンバー、THE GUILD STUDIO代表を務める。UI/UXデザインを軸に、アプリやWeb、紙媒体などの幅広い領域でアートディレクションやデザイン、コンサルティングを提供。ユーザー体験を起点とした設計とつくり込みを得意とする。

松本 博子(同右)
女子美術大学 芸術学部 共創デザイン学科学科長就任予定者

デザインがアプローチできるのは表層のビジュアルだけじゃない。

松本:小玉さんとは初めてお会いするのですが、経歴を拝見すると、共創デザイン学科(仮称)が目指したい人物像そのもの。美大ではなく理系大学出身とのことですが、どのようにしてデザイナーとしてのキャリアを積んできたのでしょう?

小玉:もともと家にパソコンが当たり前にある環境で育ち、子どもの頃からIllustratorやPhotoshopなどのデザイン系ソフトウェアに触れる時間が楽しくて、高校生の頃からデザイナーになりたいと思っていました。でも両親から美大に進むことに反対されて。東京工業大学に入学して建築や都市計画、コミュニティデザインなどを学んでいたものの、デザイナーの夢が諦められず、ダブルスクールをして専門学校でグラフィックデザインの基礎を学びました。当時はデザイナーとして就職したくても美大卒であることが必須で、理系大学出身のデザイナーもあまり多くなく…。それがとても悔しくて、デザイン会社でアルバイトをしながら独学を続けていたんです。縁あってTHE GUILD代表の深津貴之さんの会社にデザイナーとして入社し、その後広告代理店でのアートディレクター職などを経て、自分の会社を立ち上げました。

松本:デザイナーの道を諦めることなく試行錯誤してきたのですね。小玉さんが活路を見出したきっかけは?

小玉:最初は理系出身というバックグラウンドを隠そうとしていたのですが、強みにできると気づいて振り切ったことです。デザインの領域がデジタルに広がったことで、時代の需要と合致したんだと思います。中学時代からホームページを自作したりして遊んでいてコードも書けるので、エンジニアリングのスキルは武器になりましたね。

松本:今の仕事内容を具体的に教えていただけますか?

小玉:UI/UXのデザインを軸に、アプリやウェブサイト、グラフィック、ブランディングなど多岐にわたっています。オンラインショップの売上をどう伸ばすかを考えたり、新規事業の立ち上げ支援であればアイデアを考えるところから入ってプロトタイプを作り込んだり。デザインの力とロジックの力を掛け合わせてソリューションを提供しています。クライアントの課題やユーザーの体験を本質的に考えていくと、自然といろんな部分に関わるようになっていくんですよね。

松本:きちんと問題意識を持って取り組んでいくと、結局すべてを考えることになりますよね。ご自身としてもデザインする領域が広がってきていると思いますが、時代の変化は感じていますか?

小玉:はい、特にUI/UXのデザインはアプローチできる範囲がどんどん広がってきていますね。例えば「ポスターを作って欲しい」という仕事の依頼があった場合、その制作の目的から考えて「そもそもポスターを作る意味がないな」と思ったとしても言い出しにくいですよね。けれどUI/UXという専門領域に軸足を置いて関わっていると、「ユーザーの認知を獲得するためには、ポスターじゃなくて、広告を出した方が効果的では?」などと全体を俯瞰したうえで必要な提案をすることもできます。これはデザインが必ずしも表層のビジュアルデザインだけを指しているのではない、ということが認知されてきたからなのかなと思います。

松本:情報感度の高い企業はUI/UXを特に意識していますし、それによってこれから社会全体も変わっていくでしょうね。

小玉:はい。そしてもっとデザインに関する理解が深まるといいなと思っています。以前「自分はセンスがない」と言う方がいたのでその理由を聞いてみると、「会社の上司に説明資料の見た目がひどいと言われた」と。でも、それはちょっとした知識とテクニックで解決できる問題であって、センスがどうという話ではないと思うんです。社会に正しくデザインへの意識が浸透していくことで、こういう「デザインが苦手なんです」となってしまう人が少しでも減って欲しいなと思います。

社会から求められるデザイン×ビジネスの力。

松本:共創デザイン学科(仮称)についてはどう思われますか?先ほどのセンスの話につながるのですが、たとえ中学・高校で美術の成績が良くなくても関係ないと思っていて。多様な学生がデザインを学べる場にしたい。

小玉:社会におけるデザインが関わっていける領域を俯瞰的に捉えることができて、幅広く学べるところがすごくいいと思います。羨ましいし、私も学生だったら入りたいです!社会に出て仕事をする際にデザイン×ビジネスのことがわかっていると需要も高いですし、女性が社会で活躍する武器になると思います。

松本:本当にそうですね。プロダクトデザインでも、建築のデザインでも、企業では一つのアイデアを上層部に通すにはビジネス視点が必要不可欠です。まだまだ女性のポジションが低い企業も多いですし、学生にはデザインスキルに加えて、ビジネススキルを身につけることで、どんどん経営に入っていけるようになって欲しいと思っています。

小玉:私もこれまで「理系だから」「若いから」「女性だから」とは言われたくないと思ってやってきました。なめられてたまるかと(笑)。そもそも女性の感性や視点をデザインに活かした方が良いものになる可能性があるプロダクトが、世の中にはたくさんありますよね。弱気になる必要は全くないと思っています。

松本:頼もしいですね。小玉さんはスタートアップ企業のCDO(Chief Design Officer)も務めていますが、どのような役割を担っているのですか?

小玉:私がCDOを務めるBOTANIC はオンラインのフラワーショップです。「Farm to Vase-農園から皆さまのお手元(花瓶)ヘ-」というコンセプトのもと「LIFFT」というお花の定期便を運営していて、私はUI/UX部分に関わっています。例えば新サービスを始める時に、どんな利益構造なのか、何をしたいのかを代表とディスカッションして、ユーザー目線であるべき姿を提案しながらサービスに着地させていく。その際に必要に応じてグラフィックデザインをやったり、ウェブサイトをデザインしたり。今までいろんなクライアントのUI/UXに携わってきた経験を活かして、さまざまなデザインに取り組んでいます。

松本:デザイナーが経営にまで関わっていくうえで、必要なスキルはどんなことでしょう?

小玉:経営者が何を考え、何をしたいのかを理解しようとすることが大事だと思います。もちろんビジネスモデルや産業構造を知らずにデザイン的なアプローチを考えることもできます。でも、それらをきちんと知った上で考えた方が利益につながる部分でデザインの力を発揮しやすくなりますし、経営者も「事業を理解したうえでデザインを提案してくれているんだ」と頼ってくれます。「単にこのデザインを変えた方がいいですよ」ではなくて、歩み寄るべきだと思うんです。特にBOTANICはスタートアップ企業なので、やらなくてはいけないことばかり。優先順位も考えたうえで提案すると喜んでもらえますね。

松本:経営者にとって同じ立場に立って考えてもらえるのは心強い。伴走するような立場ですね。

小玉:外部のデザイナーに発注するのは企業にとってはコストになるので、本当はお願いしたいけど社内でやっているということは多いと思うんです。BOTANICでも以前はそうでした。でも、それだとクオリティに問題が出てきてしまうので、とりあえずデザインのことなら何でも相談してくださいってお伝えし続けて。そうしたら、社内のデザイナーさんから「こういうのを作ってみたんですけどどうですか?」と相談を受けるようになって、コミュニケーションが円滑になり、結果的に会社全体のデザインの質が上がって、利益につながってきています。

松本:これからの小玉さんの目標はなんですか?

小玉:大きな目標としては社会におけるデザインの立場の向上です。デザインの力が発揮できる場所はまだたくさんありますし、デザインがもたらす社会へのインパクトも大きくしていきたい。また個人としては経営者目線と感性を強めて融合させて、デザイン×ビジネスで最大のパワーを発揮できるデザイナーになりたいなと思っています。

自分ごととして考え、多角的に世の中を見る。

松本:これからの時代、ビジネスの場でデザイナーが貢献できることはなんだと思いますか?

小玉:やわらかい部分まで想像力を働かせて、よりよくできる部分をワンステップ底上げするのがデザイナーの役割だと思っています。ロジックだけでたどり着いたものも正解ではあるのですが、そこにプラスアルファのエッセンスを加えるのがデザイナーとして貢献できること。ミーティングの場では、自分がいまロジカルに考えているのか、感覚的に捉えているのか、相手にはどちら寄りで伝えるべきかを意識しながらコミュニケーションを取るようにしています。

松本:そのためにも今後求められるデザイナーのスキルは?

小玉:客観視することだと思います。今何をやっているのか、社会でどんな役割を担っているのかを俯瞰してみる。プロジェクトにおいても、現状こっちに力を入れているけど、全体の成功を考えるとあっちを頑張った方がいいということは多々ある。俯瞰するスキルはあらゆるシーンに活きると思います。それと自分のデザインを否定されたとしても、自分の人格を否定されたと思わない意識づくり、マインドの強さも大事だと思いますね。

松本:マインドの強さはとても大切で、教育でも力を入れていきたい部分です。高いスキルがあっても、しっかりとした軸がないと。私は学生に対して、「どんな方向にも行けるように、“中腰でいなさい”」とよく言っています。

小玉:わかります!私はスノーボードが好きなんですけど、力を入れるばかりではなく、力を抜くことができたら上達できたんです。それってデザインも一緒で、力の入れ方と抜き方がわかれば自分で行きたい方向にいけるし、スピードもコントロールもできるようになる。

松本:私の中腰のたとえよりわかりやすい(笑)。小玉さんはすごく考えながら生きているというか、言語化能力が高いですね。

小玉:考えることがもともと好きではあるんですけど、ある時から、強く意識して考えるようにしています。美大出身のデザイナーと比べて自分の弱みばかりが気になってしまい、何かを強めなければと思った際に、最初は感性的な部分を強めなきゃって思ったんですけど、すぐに強まるものでもない。そこで、とりあえず感じたことに対して、それはなぜだろうと考えるようになって、それが今につながっていると思います。

松本:私もデザインは理詰めで考えるたちなので共感できます。考えるクセをつけることは大切ですね。

小玉:はい。それと言語化能力もデザイナーには重要なスキルだと思います。もちろんフィーリングだけで伝われば何よりですけど、伝えたい対象が広がるほど難しい。ロジカルに考えて言語化しないと伝わりません。

松本:小玉さんはいろんな場所でさまざまな経験をされてきたことが伝わりました。それはデザインの強みになっていますか?

小玉:はい。デザインは経験則から生まれてくることが多いですし、私は自分ごと化して考えてみないとデザインできないタイプで。そんな時にいろんな関わり方をしているからこそ、自分ごと化して世の中を見て、その多角的な視点がデザインににじみ出て、強みになっているのかなと思います。ある時はコンサル的な立場で話し、ある時はミリ単位のこだわりをもったデザイナー目線で話してと、その場や相手に合わせて変えることも意識していて。そうすると伝わりやすいし、いろんなポジションで力を発揮しやすくなると思っています。

「共創」という概念を持ち、お互いの扉を開きあう。

松本:共創については、どのように考えていますか?

小玉:以前は一人でなんでもできるようになりたいと思っていたのですが、結局限界がある。そもそも社会はいろんな人が動いて成り立っているものなのに、自分一人でやろうっていうのは違ったなと気づきました。得手不得手を客観的に考えてオープンにして、それぞれが何をすべきなのか、パズルのピースを合わせていくのが共創力の大事な部分かなと。相手に興味を持ち、会話をして、どうやって同じ方向を目指せばいいのかを考えることだと思います。

松本:本当にそうですね。たいてい「共創」というといろんな人が集まって、みたいな話になるんですけど、小玉さんはもう一段階深いところまで考えが到達されている。心を開くというのは勇気がいるけれど大事ですね。

小玉:自分の心を開いて、相手の心も開いてもらえる瞬間がすごく嬉しいというか、それが人生の喜びみたいなところがあって。なぜその人はそう考えるんだろうと興味を持って、ワクワクしながら取り組むと、いい共創になるなって思います。

松本:共創はビジネスシーンにどのような変化をもたらすと思いますか?

小玉:そもそも他人や別の部署と同じプロジェクトをやること自体が共創だとは思うのですが、お互いが共創という概念を持って、お互いの扉を開き合おうと意識することで、より良いコラボレーションが起きやすくなる。しかもそこにデザイナーが入ると、縦割り組織の中では考えられていなかったことの間をうまくつないで、たくさんのプラスアルファが生まれるんじゃないかと思います。共創という前提がわかっていないと、ただ集められて、ビジネスチームが要件を考えて、デザイナーに発注するというこれまでの関係と変わらなくなってしまう。違うポジション同士で関わり合うことに意味があるという考えが広がって欲しいし、そんな共創の可能性を広めていけたらいいですよね。

松本:最後にこれから学ぶ学生へメッセージをお願いできますか?

小玉:最近はよりいっそう自分の力で考え、生きていかなきゃいけない時代に突入したと感じます。そんな時にデザインを学ぶことは、自分の人生の生き方や考え方にもつながって、答えが見えないような状況でも楽しく生きていきやすくなるんじゃないかと思っています。デザインには無限の可能性があるので、みなさんと一緒に歩みながら新しい時代を作っていけたらと思います。

Text&Edit : White Note Inc.
Photo : Gyo Terauchi