インタビュー Interview

ビジネスにおける共創とデザインの可能性

日本のビジネスシーンにおいても、UI/UX(※)という言葉が飛び交うようになっている昨今。もはやデザインは、プロダクトやビジュアルにとどまらず、サービスや体験、人材育成まで幅広い分野で活かすことができるものとして浸透してきています。第3回目となる今回は、グローバル企業の中でサービスデザインを手掛ける山口沙和子さんとの対談です。サービスデザイナーとして、日々共創を積み重ねる彼女が歩んできたキャリア、そして今後ビジネスで活きるデザインの力とは。

(※)UI…User Interface/ユーザーとプロダクトをつなぐ接点を意味する言葉。例えば、PCやスマホ、タブレットでWEBサイトなどを見ているとき、その画面上で見られる情報(フォントやデザイン等)すべて。

(※)UX…User Experience/プロダクトやサービスを通じて得られるすべてのユーザー体験。

山口 沙和子(写真右)
大学卒業後、国内経済系出版社に入社。雑誌広告営業を経て経済系デジタルメディア運営に携わり、セールス活動、広告商品開発、デジタルマーケティング、メディアプランニング等を経験。2017年にコンサルティング会社、アクセンチュアのデザイン組織へサービスデザイナーとして参画。2019年のデザインスタジオFjord Tokyo立ち上げから携わる。これまで培ってきた生活者視点のリサーチや課題分析手法を駆使しながら、中長期にわたるサービスデザインプロジェクトをリードしている。

松本 博子(同左)
女子美術大学 芸術学部 共創デザイン学科学科長就任予定者

人への興味関心からたどり着いた、デザイナーという仕事。

松本:山口さんはいま「サービスデザイナー」という肩書で活躍されていますが、サービスデザインの仕事についてご紹介頂けますでしょうか。

山口:まず、企業のサービスに触れる生活者の視点に立った時に、そのプロダクトやサービスを通して得られる生活者の体験が、企業の価値やビジネスの成否を決めます。だから私たちは、その「体験」に対してサービスの設計やその前提部分のリサーチ、さらにはサービスリリース後まで、デザインの力を駆使して支援していきます。体験の「質」を上げていくことで人々の生活を豊かにすること、そして企業価値を高めていくことが私たちの仕事です。

松本:サービスに触れる人が、体験を通して得られる価値や体験そのものの質をより良くする、という視点でデザインをしていく、そうすると結果的にそれが企業の価値や信頼を高めていくということですね。山口さんは、今の仕事に就くまでに、どんなキャリアを歩んでこられたんですか。

山口:大学では社会学を学んで、卒業後は出版社で経済誌の広告営業やオンラインメディアの運営に携わっていました。2017年にコンサルティング会社アクセンチュアに入社して、2019年11月にデザインスタジオFjord Tokyo(フィヨルド東京)の立ち上げのタイミングから参画して、いまに至ります。

松本:デザインとは違った分野からの転身ですよね。もともとデザインに興味があったのでしょうか?

山口:学生の頃はデザインを仕事にしようなんて考えてもいませんでしたし、自分がデザイナーという肩書の仕事に就くなんて思ってもみませんでした。ロールモデルがいたわけではないので、今のキャリアは、“歩んできた”というよりも“たどり着いた”という感覚に近いですね。

松本:出版社の営業職からコンサルタントに……たしかに珍しいキャリアですよね。ご自身にとってもずいぶんとチャレンジだったと思うんですが。

山口:周りからは珍しがられるのですが、実はちゃんと接点もあるんですよ。例えば、社会学は2人以上の人間が存在するところに生まれる現象や相互作用、その実態を統計やデータ、観察行為から解明していく学問です。デザインも、プロダクトやサービスなど作り出すものが世に出たときに人や社会とどのように作用するのか、それらの関係性はどのように変わるのかを考えながら行います。そして、両者はヒトの視点で現象や関係性をみているということに関しても共通しています。また、子どもの頃からヒトを観察するのが大好きでした。社会学でもフィールドワーク(※)で観察やリサーチをするので、そこは現在の仕事に繋がっている部分ですね。

(※)フィールドワーク…調査対象について学術研究をする際に、そのテーマに即した場所を実際に訪れ、その対象を直接観察し、聞き取り調査やアンケート調査を行うなど、客観的な成果を挙げるための調査方法のこと。

松本:なるほど。興味の根本が人であればそこには社会があり、社会であるならばこれまで山口さんが当たり前に培ってきた観察眼が活かせると気づいたんですね。そこからデザイナーへつながったという流れも納得です。出版社でのご経験は何か今のお仕事と繋がっているんでしょうか?

山口:当時勤めていた出版社でも、2008年くらいからオンラインの媒体をスタートして、そこでマーケティングやブランディング、デジタルの世界に触れるようになりました。いろいろな経験をする中で、デジタルの可能性をもっと大きな規模で多角的な視点から見てみたいと思い始めたんです。そこで、営業のスキルが活かせるアクセンチュアのデジタル部門の営業職に転職しまして、その後、現在所属しているFjord Tokyoの前身であるデザイン組織に異動し、そこでアプリ作りやデジタル媒体の運営など、これまでの知見を活かして働いてきました。

松本:アクセンチュアに入社する前から、デザインというものは身近にあったんですか?

山口:営業をしている時から広告クリエイティブに接していたので、デザイナーという存在はずっと身近でした。だけど、ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの本質的な課題・ニーズを見つけて、ビジネス上の課題を解決していくというデザインシンキング(※)のスキルはアクセンチュア入社後に学んだものです。アクセンチュアは全従業員に対して、論理的なつながりを捉えながら物事を考えていくロジカルシンキングや、客観的かつ分析的に思考するクリティカルシンキングを基本スキルとしています。その二つに加えて、デザインシンキングも基本スキルに掲げているんです。入社後にトレーニングをする環境があるのですが、学んでみるとこれまでずっと自分が考えてきたことややってきたことは、デザインシンキングだったのか!とぴったりハマりました。

(※)デザインシンキング(デザイン思考)…デザインを考案するときに用いる思考プロセスを、ビジネス上の課題解決のために活用する考え方。ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの課題やニーズを発見することが特徴。

松本:前例のない中で、ご自身で道を切り拓いてこられたんですね。共創デザイン学科(仮称)の卒業生が目指していくべき、まさにロールモデルです。

生活者視点を持って、すべてのレイヤーにデザインの力を。

松本:Fjord Tokyoはどんな組織ですか。

山口:Fjordは、世界50カ国 200都市以上に拠点を置くコンサルティング企業、アクセンチュアに属するデザインスタジオです。簡単に説明をすると、デザインの力によってサービスを生み出し生活者の体験を向上して、クライアントの課題解決や企業価値をあげるための支援をしています。

松本: “デザイン”という言葉がついていますけど、 “ものづくり”だけに特化している訳ではないんですよね。

山口:はい、すべてのレイヤーに関係するデザインですね。経営からサービス、プロダクトまであらゆるものにデザインの力を介入させていきます。もちろん、従来のようにビジュアルデザインという文脈で語られるデザイン領域も含まれています。

松本:生活者が触れるサービスが生まれるところから、手に渡ったあとまですべてにわたってデザインという視点で体験設計をしていくんですね。

山口:コンサルティングファームが背景にあるので、例えば製薬や保険、ITなど分野を問わず、どんな業界の企業でもクライアントになります。

Fjord Tokyoが属するインタラクティブ本部の支援内容は、「DESIGN(デザイン)」の他にも、「BUILD(ビルド)」「COMMUNICATE(コミュニケート)」「RUN(ラン)」の4つの領域に分かれています。「BUILD(ビルド)」はテクノロジーを活用してアプリケーションを作ったりUI/UXを含めて具現化する領域、「COMMUNICATE」はクリエイティブを含むコミュニケーション施策を立案・実行する領域、「RUN」はサービスが出たあとも多様なタッチポイントで顧客と継続的に交流し成果を刈り取る領域を指しています。この4つの領域でPDCA(※)を回している、戦略立案から具現化・実装〜継続的な運用まで伴走しながら成果の創出を支援できるというのが強みですね。

(※)PDCAサイクル…品質管理など業務管理における継続的な改善方法。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字。

松本:ビジネスの中にデザインの考え方が浸透し、効果をあげている。まさに新しいタイプのデザイナーが活躍できる場ですね。Fjord Tokyoにはどんな人たちが所属しているんですか。

山口:ビジュアルやインタラクション、サービス、ブランドを創るデザイナーや、そのデザイナーたちを束ねるプロジェクトマネージャーなど、本当に多種多様な人たちがいます。

松本:デザインを専門にするFjord Tokyoとその他のアクセンチュアのチームとは、どのように連携をしてプロジェクトを進めていくのでしょうか。

山口:プロジェクトのスタートには様々なパターンがあります。例えば、最初にクライアントから「売上を伸ばしたい」「新しい商品を生み出したい」などのご相談がアクセンチュアにきた場合は、そのお題がデザインで解決できるものかどうかを議論します。表面的には「売上アップ」「新商品開発」という要望が見えているんですが、よくよくお話を聞いてみると、それは体験設計から必要ですね、とか。デザインの力が必要な場合はFjord Tokyoが入って提案していくという流れです。

松本:お題を受け取って上流部分から考える、おもしろい仕事ですね。

山口:私たちが体験向上を目指す対象は究極的には使い手。つまりデザインの力を使って人々の生活を豊かにすることを目指しており、売上向上や製品・サービス開発だけに留まりません。クライアント企業にとって事業成長性がありつつも、サービスをマーケットに出して、生活者に愛され続ける状態を目指しています。

松本:日本でも割と早くからUXという言葉は企業の中であがっていたんですが、その言葉の意味が明確にならないままずっときてしまっていますよね。ちゃんと理解しないまま、自社だけで取り組もうとすると、向き合うべき問いやその先の生活者に気付くことが難しくて、時間かかってしまう。そこに対して、山口さんたちの力を借りるということですよね。

山口:まだまだ、ビジネスで「デザイン」というと聞きなれない感じもするかもしれませんが、ようやく日本でもビジネスにおけるデザインの重要性が理解され、歩み出しているような状況です。

松本:大企業では取り組み始めているところも増えてきましたが、「デザインって何?お金がかかるんでしょ?」というコストに直結させる感覚が多いと思います。そういったところにまで浸透していくには、まだ時間がかかるんでしょうね。

共に創る、リーダーとして、求められるスキルと視点。

松本: Fjord Tokyoの中では、どんなポジションなのでしょうか。

山口:主にはクライアントに向き合うポジションです。お題を受けてヒアリングをして、そこからどういうアプローチやどういうプロセスで、どういったものを作るのかを提案していきます。

松本:クライアントと二人三脚ですね。

山口:まさにお客さまとの共創です。私たちはプロジェクトが始まるときにFjord Tokyo/アクセンチュアのメンバーだけではなく、必ずクライアント側のメンバーにも入っていただくようお願いしています。クライアントの社内に対して私たちの言葉で伝えるにはやっぱり限界があり、自社のことは自社のメンバーが伝えたほうが説得力あります。私たちが支援するのはクライアント企業が持続的に成長していくための変革です。そのため、私たちの支援が無くてもサービスを提供し続けられるよう、なるべく早い段階から自分ごと化していただきたいんです。

松本:本当に仕事の幅が広くて驚きます!決断して、判断していく力が必要ですね。山口さんのような仕事をするには、どんなスキルが求められるんでしょうか。

山口:大きくは3つあると思っています。一つは、可視化と言語化ができること。二つ目は、抽象と具体の行き来ができること。3つ目は普遍性と新規性を見極める力。この3つがいまの自分の仕事の中で重要なスキルなのかなと。

松本:可視化というのは?

山口:ここでいう可視化はいわゆるビジュアル化のことを指しているのではなく、例えば物事を図解するスキルのようなことを指します。ロジカルに物事を把握して整理する、さらにそれを同じチームメンバーやクライアントに目に見える図解や言葉で共有することができる力です。どう伝えるか、ポイントとなる言葉を考えてレポートにして提供する。これが可視化と言語化ですね。

松本:図解するということで自分の頭も整理できるし、それを受け取る側も理解するスピードがぐんとあがりますよね。設置構想中の新学科でも、ものごとを分解し、整理し、図解する力を身につけるカリキュラムを構想しています。共創していくために必要なスキルの基盤が学べるはずです。

山口:ディレクター職になると経営層やクライアントの現場担当者などさまざまなレイヤーの人に説明をしなければいけません。現場の方であれば具体的な説明が求められますし、経営層の方には抽象度を上げて説明をする必要がある。その間を行ったり来たりできる力も今のポジションでは求められます。

あとは、観察する力も必要かもしれません。そもそもサービスは生活者のために作るので、人への興味が途絶えないように、人を観察するということはぜひ続けてほしいですね。人と人との関係性。言葉になっていない感情なんかも汲み取ってもらいたい。そういう意識でいると街ゆく人や、移動中の電車の中も楽しい観察の場になりますから。

松本:やっぱり、ぼーっと生きていちゃだめなんですよね(笑)。今も様々な企業様と複数の産官学連携プロジェクトを実施していますが、参加した学生たちは観察眼を身につけて、コミュニケーションスキルも上がってきています。企業の方々との対話は、学生にとってスキルの向上だけでなく、マナーを定着させる場でもあり、豊富な学びの機会です。今後、設置構想中の新学科でも産官学連携を続けていきますので、ぜひ学生たちには楽しみにしていてほしいです。

山口:素晴らしいですね。共創デザイン学科(仮称)を卒業したらすぐにでも社会で活躍できそう。私が学生だった当時にこんな学科があったら、本当に良かっただろうに……。これから学ばれる学生さんが羨ましいです。

レールのない道を切り拓く、デザインのこれからの可能性。

松本:今日お話を伺って、山口さんのお仕事は共創なくしては成り立たないんだなと感じました。

山口:日々共創の連続です。プロジェクトを進めていく中でも、まずは最初にリサーチャーとサービスデザイナーとビジュアルデザイナーの3人がセットで動くことが多いのですが、そこから、プロダクトのデザイナーや開発へとバトンを渡していきます。デザインは連続性のあるタスクなので、必ずしもパっとバトンを渡せるわけではありません。それぞれのタスクが少しずつ折り重なりながら進んでいきます。そういう意味で言うとかなりの人数で共創をしていますね。

松本:チームビルディングもお仕事の領域ですよね。そこにもやっぱり共創が生まれますよね?

山口:多い時には5〜6人くらいのメンバーが、3ヶ月から1年に及ぶプロジェクトに携わります。プロジェクトに合わせて、それぞれの能力を活かしたチームの組み合わせが決まるのですが、多くの場合一緒に働いたことのないメンバーだったり、毎回新しい組み合わせなので、その度チームビルディングをしなくてはいけません。

松本:チームビルディングの際に、大切にされていることを教えてください。

山口:その人のスキル部分はわかっていても、個人のキャラクターや経験値、興味関心など最初はわかりません。それらのすべてを融合して、共創していくためには、やっぱりコミュニケーションが必要不可欠だなと。例えば、私がいま携わっているプロジェクトでは毎日「朝会」と「帰りの会」というのを30分ずつ行なっています。話す内容はプロジェクトの進捗共有から本当に些細な「週末何してた?」といった雑談まで。私とコミュニケーションをとるためというよりは、メンバー同士が交流することでお互いを理解していけるんです。そういう環境を用意することは心がけていますね。

松本:今後デザインがビジネスの場で活きる可能性についてどのようにお考えでしょうか。

山口:デザイナーが貢献できる可能性はありとあらゆるところにあると思います。生活者の視点を経営に取り込むとなれば経営の分野でも活かせますし、従来通りのプロダクトやクリエイティブの活躍範囲ももちろんあります。デザインの側に立つ人はこれからどこにでもいける時代です。

松本:心強いですね。デザインを武器にして社会で活躍するためにも、プロダクトやグラフィックなどの基礎教育だけではなくて、分野を超えた知識の習得が必要と思いますし、そんな越境型の人材に可能性が開かれていると思います。

山口:デザイナーとしてのスキルを持ちつつ、企業が求める役割や場面などに合わせて、その時々によって柔軟に変化できればいいですよね。これから共創デザイン学科(仮称)を卒業する人たちには既存のレールはないでしょうから。どんどん道を切り拓いていってほしいです。

松本:将来、設置構想中の新学科を卒業した後にFjord Tokyoをキャリアとして目指す学生がいるかもしれません。とても楽しみです!ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。

Text&Edit : White Note Inc.
Photo : Shuhei Yoshida