レポート Report

折れずに、しなやかに

――上野ゆかりさんの仕事の流儀

92日(土)の自律的キャリア教育の授業において、芙蓉総合リース株式会社の上野ゆかりさんに 「企業で主体的に生きていくこと」をテーマに講演いただきました。

言葉の意味を考える

「皆さんは、原田マハという小説家を知っていますか」。上野さんは講演の冒頭、問いかけました。そして、原田マハの『本日は、お日柄もよく』という作品の一節を暗唱し、最後の「言葉の力を、あなたも信じてみたらどう」という言葉が、今回の講演のキーワードになると語りました。

主体的。この言葉は、一般的に「自発的」「率先して行動すること」という意味で使われます。しかし上野さんは、「自ら選択・判断する。そして行動に移し、結果に対して責任を持つこと」だと考えます。これは、ビジネスの現場で上野さんが学んだことです。仕事は判断の連続。役割や権限に違いはあっても、判断をしなければ仕事は前に進みません。例えば、若手が判断を迫られたとき、上司の意見を盲目的に信じるのは違うのではないか。本人が良いと思わないと結果の受け止め方にも差が出てしまうはず。決断するのは本人であり、上司ではない。意見を聞いたうえで、自分の意見に取り入れることが主体的なのだと上野さんは考えます。

周りの人の言葉から学ぶ

仕事に失敗は付き物。上野さん自身、数々の失敗を経験してきました。その時々での上司の言葉が忘れられないと言います。入社10年目、当時は上野支店に勤務をしていた上野さん。営業の仕事を終えて事務所に戻り、ちょうど電話が鳴っていたので出ると、途端にオフィス内に響き渡るほどの怒号が飛んできました。上野さんへの苦情の内容です。電話口で何度謝っても、クライアントの怒りは一向に収まりません。上司である支店⻑が対応してくれましたがらちがあかず、ついには社⻑につなぐように言われてしまいます。役員と支店⻑が謝罪に伺うことになり、その際支店⻑が上野さんに声をかけてくれました。「俺が今どういう動きをしているかを見て、覚えておけよ。お前がいつか上に立ったときに役に立つから」。その後、今回の報告書を見た社⻑からは、「営業をしているから失敗を経験する。仕事をしていないと失敗もしない」というコメント。

これらの言葉を聞き、猛省をしたのと同時に救われたと上野さんは言います。自分が支店⻑だったら、トラブル対応の最中に、部下に教える余裕が持てるだろうか。社⻑だったら、 励ましの言葉がかけられるだろうか。この経験から、部下を思い、適切に行動できる上司にならなくてはいけないと心に決めました。

そして仕事をしている以上、気持ちを切り替えて進まなくてはいけません。仕事での失敗は仕事で取り返し、信頼を回復したい。担当しているのはひとつの取引先だけではないし、他にもやらなくてはいけないことがたくさんあります。さらに、自分が上司の立場であれば、チームや部下のために立ち上がる力が必要です。大事なのは、「反省から学び、忘れること」。失敗を引きずることなく、周りの人がかけてくれた言葉を大切にして次に進むことが重要であると上野さんは考えます。

自分なりのリーダーのかたち

およそ20年間、芙蓉総合リースで営業職に携わっていた上野さん。会社のジョブ公募という制度に応募し、グループ会社である株式会社アクア・アートの代表取締役社⻑に就任しました。しかし、営業職でチームを率いてきた経験があっても、それとは比べものにならない仕事量と責任の大きさでした。会社の事業もそれまで携わったことのないジャンルのため、聞いたことのない用語が飛び交う中で社⻑一年目が始まりました。

自分の経験不足を実感し、社員にこう伝えました。「社⻑として判断はするし、責任は持ちます。ただ、自分にはまだわからないことがあるし、この仕事の知識や技術においては 皆さんを信頼しています。だからこそ、私が判断を間違わないように、正しい情報と状況を報告してください。そして必ず、自分の意見を添えてください」。

上野さん自身はチームを引っ張っていくリーダーではないと言います。上司らしくないと、悩んだときもありました。しかし、さまざまなタイプのリーダーがいて良いのではないかと感じるようになったのです。周りの力を借りながら、自分の仕事を全うする。判断、決断を自分の意思で行う。それが上野さんの考えるリーダーであり、しなやかさです。

共創デザイン学科の3つの特徴的な教育のひとつである、ライフマネジメント教育を開設するきっかけにもなった上野さん。「折れないしなやかさとは何か?」を考えさせられるお話でした。

上野ゆかり

芙蓉総合リース 融資部長。1993大学卒業後、芙蓉総合リース株式会社に入社。法人営業に永年携わり、2010年以降マネージャーとしてチームを牽引。2018年社内ジョブ公募に挑戦し、グループの株式会社アクア・アートの代表取締役社長に就任。「AQUA ARTが働き方・暮らし方をより良いものに」をコンセプトに、アクアリウムのレンタル事業や商業施設でのイベントの企画・運営を手がけるとともに、新たにBtoC市場向け商品を開発し、自社通販サイトを立ち上げた。

本レポートは、自律的キャリア教育として、社会で活躍する女性にご講演いただき、学生が聴講、インタビューしてレポートを作成しています。

指導教員:石橋勝利 株式会社アクシス デザインデベロップメント ディレクター