レポート Report

男性だらけの環境から踏み出したグローバルへの道

〜阿部玲子さんの講演を聞いて〜

817()、自立的キャリア教育の授業において阿部玲子さんに講演いただきました。 阿部さんはオリエンタルコンサルタンツグローバル執行役員で、同社のインド現地法人取締役会長でもあり、都市開発や鉄道事業などに携わる土木エンジニアとして活躍されています。「態度と声だけはでかいんです」と今までの先生がたにはなかったマイクを使わない講義スタイルで、学生時代から海外留学までの道のりや圧倒的男性社会である土木業界での経験を語っていただきました。

圧倒的男性社会

高校時代、「英語が嫌い」という理由から理系の大学に進むことを決めた阿部さん。せっかく理系にいくのなら、形あるものをつくる仕事に就きたいと、工学部の土木系の建設工学学科に進学しました。そこで困難が立ちはだかります。阿部さんは同大学の土木系学科にとって初めての女子学生。そのため校舎には女性トイレがありません。大学に掛け合い、男性トイレを阿部さんのためだけに女性トイレへと変更されましたが、不満を感じた男子学生が女性トイレに「阿部の部屋」と貼り紙をする始末。

また、就職活動をするにも、当時の土木業界は圧倒的男性社会。就職活動では希望するゼネコンに入ることができず、就職を諦め、大学院進学に方向転換しました。その後、神戸大学大学院に進学しましたが、苦悩はここで終わりません。大学院卒業を前に再度就職活動を始めた阿部さん。どうしても「つくる」会社に入りたいという強い思いから20社に打診するも、面接すらしてもらえない。どこの会社も理由は同じです。「女性だから」。周りの男子学生たちは次々と内定をもらいます。「他のものは変えることはできても、性別は変えられない。そこで判断されるのはとても悔しかった」。阿部さんは当時の心境についてこのように語りました。

「だからいつか絶対やってやるんだ」。そのときに感じた悔しさが阿部さんの心に火をつけました。

“理不尽”を乗り越えていく

担当教授の助けもあり、ゼネコンに就職することができた阿部さん。しかし、トンネル工学が専門である阿部さんに思わぬ事態が起きます。「山の神様の言い伝えにより、女性はトンネルに入れない」と言われたのです。つまり女性だからという理由でトンネル工事の現場にいけない。なんとも理不尽な話です。もし、社内で人員削減することになれば現場に行ったことのない自分は真っ先にクビになる。危機を感じ、専門以外に何かプラスαでできることを探しました。

そこで思いついたのが海外に行くことです。工学系のエンジニアはたいてい英語が苦手。ならば海外に行って自分の強みをつくろうと考えたのです。しかし、海外に行くには解決すべき大きな問題がありました。それは英語力です。英語が大嫌いだった阿部さん。大学院入試の試験では200点満点中28点。しかも大学の成績が良くないというダブルコンボ。英語の実力と大学の成績が重視される国への留学を諦め、視野に入れたのはノルウェー工科大学でした。そこでは様々な国の人が集まり、全授業が英語で行われるインターナショナルクラスを選びます。

「コネクション」。これは留学で阿部さんが得た大きな財産です。インターナショナルクラスでは22カ国からの留学生が集まっており、様々な国の人との繋がることができました。「海外ではコネクションを持っていることほど強い能力はない」と言う阿部さん。実際にコネクションを駆使して海外での事業に取り組みました。英語が大嫌いだった阿部さんは海外留学を通して、英語力に加えコネクションという社会人において最大の強みを得ることができたのです。

諦めない心とは

ここまでの話は阿部さんの人生における序章に過ぎません。ここからやっと土木エンジニアとしての本格的な仕事が始まります。中国やカタールなどで土木事業に従事した後、インドのデリーでメトロ開発に携わったときのこと。当時女性のエンジニアなどいなかったため、現場のインド人は「女が来た」「女と仕事するのか」と大騒ぎする事態に。しかし、その土地の文化や人々の生活を理解しながら、少しずつ課題を解決し、共感してくれる仲間を増やしていきます。

同じくインド第7の都市であるアーメダバードでの地下鉄工事で初めてのトップを務めたときには「女性にできる仕事ではない」「インドでは地下鉄工事に女性のトップなど前例がない」と現地政府の人々が大反対。しかし、これまで一緒に仕事をしてきた多くのインド人のスタッフが「マダムならできる」と明言してくれて、無事トップとして着任することができました。

そんな波瀾万丈な道を進んできた阿部さんはこのように語りました。「壁にぶつかる人とぶつからない人では、大きな差が生まれる。壁にぶつかるから乗り越える。乗り越える経験を積むことで、その経験が武器になる」。

多くの経験をとおして「諦めないこと」が武器となった阿部さん。ノルウェー留学中も異国での生活に耐えられず、あきらめそうになったことがありました。しかし、「ここで諦めたら2度とこの業界には戻ってこられない」。もし、このときあきらめていたら、今の阿部さんはなかったかもしれない。台湾の新幹線事業やインドの地下鉄事業に携わる機会はなかったかもしれない。

様々な壁を乗り越えながら阿部さんが得た、「諦めない心」は自分の人生だけでなく、土木という事業をとおして都市の環境や人々の生活を大きく変えたといっても過言ではありません。

インドの地下鉄プロジェクトでの阿部玲子さんの奮闘を描いた漫画「マダム、これが俺たちのメトロだ」。

インドの地下鉄プロジェクトでの阿部玲子さんの奮闘を描いた漫画「マダム、これが俺たちのメトロだ」。
https://www.jica.go.jp/Resource/publication/manga/india_metro.html

阿部玲子

株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル執行役員、同インド現地法人取締役 会長。山口大学工学部建設工学科卒業後、神戸大学大学院土木工学専攻修了。1989年鴻池組入社。1995年ノルウェー工科大学留学後、2004 年オリエンタルコンサルタンツグローバルの前身企業に転職。中国、カタール、ウクライナ、インドネシアでの鉄道建設事業、インドの地下鉄プロジェクトや新幹線プロジェクトなどに従事。

株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバルwebサイト

本レポートは、自律的キャリア教育として、社会で活躍する女性にご講演いただき、学生が聴講、インタビューしてレポートを作成しています。
指導教員:石橋勝利 株式会社アクシス デザインデベロップメント ディレクター