卒業生が語る、大学での学びと共創の場とは
共に、創る――。共創デザイン学科に入学する学生にはどんな学びが待っているのでしょうか。また、社会へ羽ばたいた後には、どんな共創が待っているのでしょうか。第一回目は、共創デザイン学科学科長就任予定の松本博子先生が、教え子2名にインタビュー。卒業から数年たったいま彼女たちが感じる共創の可能性、そして社会につながる大学の学びとはなにか、お話を伺いました。
松山 美欧
2016年女子美術大学卒業。デザイン会社でパッケージデザインや商品化を経験したのち、クリエイティブエージェンシーへ転職。コピーライター、プランナー、プロデューサーなど様々な役割の人と関わり、より幅広い媒体のデザインを経験。自身のスキルアップを目指し、スタートアップ企業のデザインからブランド構築、経営サポートにも従事している。共創デザイン学科では、非常勤講師に就任予定。牛山 明日香
2019年女子美術大学卒業。株式会社 荏原製作所の環境事業カンパニーである荏原環境プラント株式会社新設組織に所属し、環境プラントの地域活用や環境啓発に関わる企画提案を行う。そのほか、ポンプの製品デザイン、UIデザイン、プロモーションデザインなど幅広い領域でデザインの力を発揮している。
誰かと一緒なら、1を100にもできる。
松本:卒業してからも頼もしく活躍されているふたり、まずは自己紹介をお願いしてもいいかしら?
松山:2016年度卒業の松山美欧です。大学でプロダクトデザインを学んだ後は、デザイン会社でプロダクトのデザインや商品化を担当していました。主にはアイスや飲料などのパッケージデザインです。転職した今はクリエイティブエージェンシーでデザイナーとして働きながら、同時にいくつかのスタートアップ企業のクリエイティブ開発や経営企画をサポートしています。
牛山:2019年度卒業の牛山明日香です。荏原環境プラントというごみ処理施設を建設・運営する会社の営業部門で総合職として入社しました。新しいごみ処理施設を建設する際に、完成したらどのように地域で活用していくのか、どのような環境啓発を行うのかを企画する業務を担当しています。具体的には社会科見学にくる小学生などの見学者向けに、説明設備はどんなものを置けばわかりやすいか、どういった順序で見学をしてもらうかなどを企画する業務です。そのほかにも運営している施設でイベントを行う際には、イベントの企画や当日のイベントサポートなども行っています。
松本:早速ですが、大学ではどんな学びが印象に残っていますか?
松山:最後の卒業制作ゼミが印象的です。松本先生のゼミに所属していたんですが、非常に学びが多かったですね。制作面の学びはもちろんですけど、一番は松本先生とのやりとり。先生は人の意見を否定したり、やめなさいとは絶対に言わない。そういう案ならば、こうしてみたら良いんじゃない、と私の中にくすぶっているものを引き出して、広げてくれました。
松本:松山さんは自分で考えて進んでいける人だから、私はただ背中を押してあげればいいんだなと思ってましたよ。
牛山:ちなみに卒業制作は何をされたんですか。
松山:全国にある11の神社のご利益にスポットを当てて、ご利益と自分のライフイベントを紐づけて、いろんな神社を巡る企画を考えました。各神社のご利益に合わせてプロダクトやリーフレットを作ったんです。例えば、浮気を封じるご利益がある神社なら、釘をくるっと丸めた指輪を作ってみたり。「相手に釘をさす」というクスッと笑えるような意味もプロダクトに込めました。
松本:ストーリーや背景からコンセプトを反映したプロダクトですね。卒業制作の時も感じたけど、松山さんは企画が上手だよね。
松山:大学生の頃から企画をつくるのが好きでしたけど、ゼミを通して私一人だったら1を5くらいにしかできないものを、先生が背中を押してくれたり伴走してくれたりすることで、1を100にもできるんだと実感しました。
松本:言い過ぎじゃないかな(笑)。でも実際に今仕事をしていて1を100にできた経験は活きているのかな?
松山:デザイナーが「上流から関われる」仕事というと、「0→1」と言われることがよくありますが、社会に出てみると、世の中のデザインの大半は、1あるものに対してどういう風に100にするかという仕事が多い。例えば、企業のお仕事でもすでにあるブランドの新しいパッケージを考えたり、商品の魅力をどんな風に伝えるかを検討したりとか。だからその経験を在学中にさせてもらえたのはありがたかったですね。
共に創るために、まずは相手を理解することから。
松本:牛山さんは、何が印象に残っている?
牛山:授業ではグループワークが多かったんですが、特に企業と一緒に行ったプロジェクトが印象的でしたね。
松山:外部と関わる学びが豊富なのも松本先生のゼミの特徴ですよね。ちなみに、どんなプロジェクトだったんですか?
牛山:ルネサスエレクトロニクスという半導体メーカーと一緒に行ったプロジェクトで、入社1年目のエンジニア4~5人と女子美の学生が4〜5人で1つのチームになって、半導体を使ったプロダクトを作るという内容でした。分野も違えば、普段考えていることもまったく違う方々とどうコミュニケーションを取りながら課題を解決していくか。とても勉強になりましたね。
松本:異分野の方と関わることで、学生たちも学びが多かった授業だと思います。しかも、デザインとは対極とも言える技術系。あえて難しいところを狙ったコラボレーションでした。
牛山:松本先生の狙い通り、結構苦戦しましたよ(笑)。
松本:なるほど。でも、とても良い雰囲気を作り上げていましたよね。特に初回の授業では、牛山さんチームが一番盛り上がっていた。
牛山:最初の顔合わせの時、お互いかなり緊張していたんです。この空気のままでは、プロジェクト自体がうまくいかないかもと思ったので、まず初めに自己紹介をすることにしました。他のチームはどんどんプロジェクトの話を進めている中、私たちのチームは一人ずつ名前と好きなものや趣味を話して、そこでアニメや工作、ギターが趣味といったメンバーの人となりが見え、どんどん打ち解けることができました。
松山:すごい!チームの雰囲気づくりって本当に重要ですもんね。牛山さんチームは何を作ったんですか?
牛山:水族館で活用する音声ガイドを作りました。本体機器はオリジナルの水中生物のようなデザインにして、水槽に人が近づくとビーコンに反応して、まるで生きているかのように水槽の説明をしてくれます。また別の水槽では、展示されている魚たちが話しかけくるような仕掛けを取り入れました。
松山:おもしろいですね。
牛山:もちろん半導体を使って実際に動かせるプロダクトを作るなんて学生でも初めてでしたから、エンジニアの方に依頼するにあたってLEDって何色に光るんだろうとか、色々調べて依頼をしたり。どういう風に光らせたいのかを言葉で伝えるのが難しければ絵で描いて説明したりとか。試行錯誤しながら進めていました。
松本:コミュニケーションの仕方が同じ人や共通の話題が通じる相手とだけ話していても、社会に出たときに苦労しますからね。技術者は理詰めでものを考える、デザイナーは感覚で考える、そこをどう解決していくのかが大きな鍵でした。絵でかく、説明するというコミュニケーションの一つひとつがチームの一体感につながったんですね。
牛山:逆にエンジニアの方々も、説明が難しいものは試作モデルを作ってくれたり、図解してくれたり。お互い相手に伝わるコミュニケーションが意識できていたのかなと思います。
松山:もともとコミュニケーションは得意なほうだったんですか?
牛山:それが、全くそんなことはなく(笑)。2年生のグループワークで苦い思いをして、うまく伝えられないという経験をしました。その時なぜうまくいかなかったのかを考えてみると、やっぱりお互いのことをあまり知らなかったからだと思ったんです。同級生とはいえ得意分野がわからないと、プロジェクトのどこで力を発揮できるのかわからないですよね。だから、まずお互いを知ることって、とても大事なんだと思います。
松山:仕事と一緒ですよね、お互いのスキルや考え方、価値観を理解して、一緒にものづくりしていく。
松本:上手くいったり、時には失敗したり、さまざまな経験を繰り返すことで自分の力になっていきますよね。共創デザイン学科では、学生のみなさんにできる限り多くの経験を積んでもらうためにも、自治体や企業とのコラボレーションに力を入れていきます。多様な領域の人たち、異なる文化や価値観を持つ人たちと一緒に何かをやることは難しいけれど、この経験が社会に出たときに大きな力になりますから。もちろん最初からうまくはいかないかもしれません。でも、それでいいんです。共創を通して気づきを得ることが大事。そう思っています。
共創するために必要な、ゴールを示せる力と人材。
松本:松山さんはスタートアップ企業ともお仕事をしていますよね。具体的にはどんなことをしているのかな。
松山:とにかく幅広いです。デザインを提案することもあれば、企画やプロセスづくりなど経営に関わる部分もデザインさせてもらっています。
牛山:お付き合いされているスタートアップ企業はどんな業種が多いんですか?
松山:例えば、チョコレート好きが高じて、ガーナの農園に行って学んだことを活かして、チョコレートの会社を運営している方や離乳食ブランドを立ち上げている方、お花農家さんたちが出店できるwebプラットフォームを作っている会社さんなど。
牛山:本当に幅広いですね!
松山:スタートアップの方たちもデザイン系ではないので、どういうふうに自分が考えてデザインしたのかということを理解できる言葉で伝えなければいけません。デザインの専門用語を使った説明ではなく、双方の共通言語をみつけていかなきゃいけない。
松本:その上で何か意識していることってあるのかな。
松山:一番大切なのはリスペクトですね。相手の言っていることをちゃんと理解して、どうしてこういう考えに至ったんだろうと考えることもリスペクト。それと同時に、言うことを全て受け入れるのも違うと思っています。自分の中で判断軸を持って、一つの綺麗な球に磨いていく。ときには削ぎ落とすものもありますけど、削ぎ落としたときにその人の意見を突き放すのではなく、こういう意見を受けて、こう考えて、こうしましたと納得してもらうことも大切にしています。
松本:判断軸を示すというのは、要するにクリエイティブのディレクションだよね。
松山: そうですね。1あるものを10人で100にしていくときに、まずゴールを共有しないと、10人それぞれバラバラの方向に進んでしまう。100は100でもこっちの100に向かおう!と先導していくのがクリエイティブディレクションですね。
最終のゴールを共有した上で、じゃあそのゴールならばこういう文章だよね、写真はこういう撮り方だよねという議論ができる。そうすることでより良い成果が出ると思います。
牛山:10人で100を生み出す。まさに「共創」ですね。
松山:人に何かを任せるっていうのがもともと苦手だったんですけど、それだと社会のスピードに追いつけないですし、クオリティも上げきれない。自分もまだまだ勉強中ですが、その力は身につけていきたいですし、伝える力を高めていかないといけないなと日々勉強です。
松本:クリエイティブディレクションをするためには、基礎のクリエイティブが実は重要。ベースができていると、関係者で明確なゴールを共有することができるんです。ビジュアルでゴールを見せるとかプロトタイプで方向性を表現するとか、その時に基礎デザインの力が活きてくる。設置構想中の新学科ではしっかりとこの基礎も学べるように考えています。そうすれば、将来デザイナーを目指したい人も企画段階から実制作までどういう風に組み立てていくのかトータルで考えられるようになります。
自分を活かせる道は、ひとつじゃない。
松本:牛山さんのキャリアの歩み方は、共創デザイン学科のまさに目指すところだなと思っているんです。企業の企画や運営など仕組みをデザインする力を発揮できるポジション、総合職のフィールドでも学びを活かすことができるんじゃないかなと。牛山さん、実は卒業するギリギリまで進路に悩んでいたんだよね?
牛山:はい、もともと高校生の時からパッケージデザイナーになりたいという夢がありました。でもいざ大学に入ってみると、松本先生の授業やプロジェクトを通してデザイナーってただ見える部分をデザインするだけじゃないんだ、ということに気づきました。だから就活でもギリギリまで悩み、デザイナー職と総合職どちらも受けていました。そんな時にちょうど荏原製作所と出会って、あぁこの会社だったらこれまで思い描いていたデザイナーという枠にとらわれずチャレンジさせてもらえそうだな、という可能性を一番感じたので今の道を選びました。
松本:きっと葛藤もたくさんあったと思います。でも、これまでのデザイナー像に縛られる必要は全くない。今後はその意識から変えていきたいと思っています。プロジェクトの中でもリーダーとなっていく人材が必要で、そういう人材を専門に育てるところをつくらないと、という想いが強くあります。
牛山:私自身もこの選択はチャレンジでしたが、荏原でもそれまで美大から採用された方はいなかったので、会社としてもチャレンジングな採用だったと思います。
松本:クリエイティブ職を目指す学生たちが、気づいていない活躍の場や開拓できていないところが、まだまだいっぱいあると思うんです。牛山さんのように、力が活かせる場所は一つじゃない。どんどん道を切り開いていける人、領域を超えていくイノベーター的な人を共創デザイン学科では育てていきたいですね。
松山:期待が膨らみますね。
松本:そうですね、もしかしたらチーム作りもそうかも知れないですし、コミュニケーションをデザインしていくことかもしれない。そういう風に広い視点で見れば、松山さんのようにスタートアップ企業とパートナーになって、経営に入っていくことだってできますから。
松山:グラフィックデザイナーならグラフィックだけつくる、プロダクトデザイナーならプロダクトだけつくるなど、自分の「デザイン」という仕事を、枠の中に収めずに、企画や仕組みづくり、デザイン提案など企業の経営部分から関われるのはとても楽しいですよ。
牛山:共創デザイン学科での学び、ワクワクしますね。わたしもまた通いたいぐらい。
松本:ふたりともありがとう、これからもどんどん新しい可能性やキャリアを切り開いていってくださいね。共創デザイン学科にぜひ期待していてください!
松山&牛山:はい、楽しみにしています。ありがとうございました。
Text&Edit : White Note Inc.
Photo : Gyo Terauchi