レポート Report

松本先生のホンネ

共創デザイン学科の学科長、松本博子先生に学生たちが抱いていた疑問や興味についてお話を伺いました。松本先生の教育理念や学生への期待、共創デザイン学科が目指す未来像などについて、先生の思いをお届けします。

デザイン×女性の共創力で社会を変える

まず、近年美大においても、デザインとビジネスを掛け合わせるデザイン思考や、社会との実践的な取り組みに重きを置いた学科が注目されていると思います。そんな中で、女子美術大学に「デザインを主軸に、ビジネス、テクノロジーを横断的に学び、 実践型プロジェクトを通して、多様な人々と共創する力を身につける」をカリキュラムに掲げた共創デザイン学科を設けた理由を聞かせてください。

見た目だけのデザインではなく、ユーザー視点に立って、なぜそれが必要なのかを考え、デザインを根本から捉えることが持続可能性につながると考えています。これは、私が東芝で働いていたときから実感していることです。これからのデザイナーはデザインの技術だけでなく、ビジネス力やデザイン思考を持ち合わせていなければなりません。

そして、女性のキャリアに関して言えば、優秀な人材であるにも関わらず、結婚や出産などで仕事を辞める女性が多いのも事実。こうした女性特有のライフイベントで心が折れることがあるかもしれませんが、挫折しないような強いマインドを養う必要があります。また、企画をする際の女性の共感力は素晴らしいものです。その力を発揮してお互いを尊重し合いながら一致団結することが共創力です。

これらの経験を活かした学科をつくりたいという思いがありました。専門性を育成することも重要ですが、それだけでは、多くの美大の中で「女性の美大」ということしか言えません。では何を強みにするか。そこに私が女性として社会や企業での経験を基に構想した教育内容をみんなに提供することだと思いました。

かつての女子美は外部との関わりがあまりなかったため、学生が実践的なアウトプットができるようにするにはどうすればいいのかを考えました。女子美の学生ならもっと面白いことができると思っていたので、企業と関わることで学生も成長できると考えたのです。デザインだけでなく、経営感覚やマーケティングをしっかり身につけた上で提案ができれば、女子美生が世の中に出て、社会を動かす存在になるチャンスが増えると思います。「できる」を積み重ねれば、自分のコアとなり、自信が生まれます。だからこそ共創ができるのです。

実は、他の美大である学科をつくった同僚がいて、有名デザイナーたちと一緒に1からカリキュラムを考えているのがとても羨ましかったのです。でもそれが共創デザイン学科で叶えられました。

何十年と積み重ねてきたキャリアを学科に組み込んでいますが、学科設立は私にとっても初めての経験です。そんな学科を勇気を持って選んでくれた学生たちが頑張ってついてきてくれるのを見て、努力が報われた気がします。それが私の原動力です。1期生はたいへん成長しました。1期生は私にとってとても大切な存在です。

他美大と、女子美の共創デザイン学科で迷っている受験生も多いと思います。私もその1人でした。しかし、今のお話を聞いて、改めて女子美ならではの強みを感じました。

女性ならぜひうちの学科を選んでほしい。世の中に出たら、まだ男性中心の組織や、女性特有のライフイベントなどで心が折れることがあると思います。でも折れてもいいのです。もう一度立ち上がろうという気持ちが大切です。そのために、自律的キャリア教育やライフマネジメント論も実施しています。

日本において女性の社会的地位はまだまだ低い。特に社会を動かすような職に女性が少ないのは問題です。だからこそ、皆さんには社会を動かすような女性になってほしい。ではなぜこの学科がデザイン科なんだろうと疑問を持つ人もいると思いますが、それはデザインの力は多面的であり、さまざまな分野を統合した上でユーザー視点に立って考える力があるからです。そのデザインの力で、社会を切り拓く女性に育ってほしいのです。そのために共創デザイン学科は精進します。女子大がもっと力を発揮すれば、政治や企業など、女性の社会的地位も向上するはずです。

第一線のプロが教壇に立つ

社会との連携が密接であることがよくわかりましたが、関連して共創デザイン学科の特徴の1つに、社会経験が豊富な多くの外部講師の方々にご指導いただける点が挙げられます。講師陣は、松本先生が築いてくださった縁で構成されていると感じています。どのような経緯で講師を引き受けていただいているのでしょうか?

まず審査会や展示会でお会いした方々の中から、ぜひ講義をしてほしいと思った方をお誘いしています。社会の第一線で活躍している方たちは、自分の知見を学校で活かせることを喜んでくれています。

どの先生も共創デザイン学科のカリキュラムに賛同してくれていて、そういった大人には理解されている学科なので、学生の皆さんにはぜひ誇りに思ってもらいたいです。

1期生の成長

では、ここからは共創デザイン学科生についての質問です。新たに1年生を迎えて1つ学年が上がった2年生はどのように成長したのか、先生から見て感じることを教えていただけますか

まず教室についてですが、学生が自由で多様な姿勢で授業を受けて欲しいという思いでこのようなレイアウトにしています。ただ、1年生の頃はまだその使い方が理解できていないという印象でした。リラックスできる空間をつくりたいというのは確かなのですが、限度はあります。授業ではその切り替えをしてほしかった。

それを踏まえて2年生では、授業は講義形式のようにで机を配置をし、リラックスできるソファなどは教室の後方に置きました。するとみんなの教室の使い方というか、授業と休憩の切り替えが少しずつできるようになってきました。まだ使いこなせていないとは思いますが、3年生になると教室移動とともに家具も移るので、もっと自由な形で教室を使ってほしい。学外の人に「こんなふうに学んでいるんだ」と思ってもらえるといいですね。

それから、産官学連携プロジェクトの1、2年生合同プロジェクトの際、みんな先輩としての役割を果たせていて驚きました。この学科の主旨を理解しているんだなと。1年生が参加するチームをどうつくっていくといいのか、どういうふうに話してあげたらいいのかというところを考えて振る舞っている2年生を見て、とても成長したと感じました。

2年生の皆さんは去年の1年間色々悩んだと思います。本当にこの学科でよかったのかとか、何やっているのかわからないという人もいたでしょう。だけど、悩んだからこそ、今たくさん活躍している学生の姿に感動しています。

自らきっかけを創る力

そんな失敗も成長も繰り返していく私たちですが、最後に、今後共創デザイン学科の学生に期待すること、こうなってほしいなど将来の展望をお聞かせください。

3、4年生になったら自分たちから率先してどこかの企業と企画をしたり、新しい活動をしたりなど、ぜひ何かを起こしてもらいたい。

社会を垣間見たとき、その理不尽さに気づいて、人々を助けたいと思ったのなら、友達同士で自主的に活動を起こしてみるとか。そういったきっかけをつくったら、私も全面的にバックアップをします。

今はまだ他人がつくったきっかけに乗っている状態だけれど、もう十分いい乗り方をしてくれています。何度も他人のきっかけに乗っていたら、いずれ自分たちでやりたいって思うはず。それが望みです。だから、最後の卒業研究は自分たちできっかけをつくって、アウトプットしてほしいと思います。

きっかけは小さくてもいいんです。自分の身の回りで何か注目できること、それでいいんです。それが積み重なればどんどん成長して、例えば大きな企業のようになると思います。その根本である身の回りの問題に着眼できるかどうか。きっと授業でたくさん鍛えられているのでみんなならできると思います。なんだかいつも力が入ってしまいますね(笑)。

いや! そんな情熱と愛を持った松本先生のもとで学ぶことができて幸せです。これからもより成長したいと実感しました。

ありがとう(笑)。私が実際に社会で体験したこと、そこで学んだことなどを授業カリキュラムに詰め込んでいますので、それを吸収して頑張ってほしい。先生たちを超えて、世の中で活躍していってください。期待しています。

本記事は、2年生の授業「コミュニケーション特論II」で制作されました。
指導教員:石橋勝利 株式会社アクシス デザインデベロップメント ディレクター